MK8 ホットエンド徹底解説【TRONXY XY-2 PRO】

タイトル

3Dプリンタのホットエンドのオーバーホールをします。簡単な部品でできていますが、ホットエンドの仕組みを知らないと正しく組み立てられません。

私が使っている3DプリンタはTRONXY XY-2 PROというものです。2万円ちょっとで安価できれいな造形ができる3Dプリンタです。TRONXY XY-2、Creality Ender 3など低価格な3Dプリンタは同じ仕組みのホットエンドを使っています。
買ってから半年を過ぎたのでホットエンドをオーバーホールします。

XY-2 PROのホットエンドはMK8と互換性があります。正しく組み付けるため、MK8のホットエンドの設計思想と仕組みを把握しましょう。

MK8 ホットエンドの仕組み

ホットエンドの部品は次のように呼びます。
部品名称
ヒートシンク、ヒートブレイク、ヒートブロック、ノズルです。ワンタッチ継手とヒーターは省略しています。ここでフィラメントを溶かしてノズルから出すわけです。

ヒータと温度センサーはヒートブロックの穴に取り付けられます。つまりヒートブロックの温度がスライサで設定した温度に制御されます。ノズルの温度ではないことに注意しましょう。
ヒートブロックの熱をノズルへ伝えます。そのためノズルの熱伝導率は高いほど良いです。ノズルは消耗品でもあるので安価な真鍮が良く使われています。

ヒートシンクはヒートブレイク内のフィラメントが溶けないようにヒートブレイクを冷やします。ヒートブレイクとヒートシンクの熱伝導率は高いほうがヒートブレイクがよく冷えます。しかし、ヒートブロック側はフィラメントが溶けるほど熱くならないよう熱伝導率は低いほうが良いのです。そのため、ヒートブレイクにはステンレスが良く用いられます。チタン製のものもあるようです。ステンレスとチタンの熱伝導率は真鍮の1/6ほどです。

ホットエンドの中のフィラメントは次のような状態になっているのが理想です。
ホットエンドの中のフィラメントの状態
フィラメントはノズルに触れて液状になります。ヒートブロック側のヒートブレイクの中では液状になる寸前まで柔らかくします。ヒートシンク側では硬いままです。柔らかいフィラメントはエクストルーダの押し出しや引き込みの動きを吸収してしまいます。柔らかいフィラメントの領域が長いとエクストルーダーの押し引きの動きを吸収してしまい、ノズルから出るフィラメント量が正確ではなくなります。ですから、できるだけ柔らかい領域は短いほうが綺麗な造形ができる事になります。
ヒートブレイクのヒートシンク側とヒートブロック側の間はできるだけ薄い管にすると断面積が少なくなり熱が伝わりにくくなります。これで、フィラメントがヒートブロックに近づくと急激に加熱され柔らかくなるようにしています。

PTFEチューブはフィラメントガイドではない

以上を理解したら、PTFEチューブに注目してください。MK8タイプのホットエンドの特徴はPTFEチューブがヒートブレイクの中を通りノズルと直に接触している事です。これはヒートブレイクの中のフィラメントがヒートブロックの熱で溶けないよう断熱する狙いがあります。

また、柔らかいフィラメントが引き戻され再び押されて太くなったとき、冷たい管の内壁に密着して動かなくなってしまうという問題があります。PTFEチューブならフィラメントがチューブ内壁に固着する可能性は低く、詰まりの防止になります。

もう一つ、ノズルと密着してシールする役割があります。ヒートブレイクとノズルの接触面から溶けたフィラメントが漏れ出さないようにしています。

つまり、PTFEチューブは重要なホットエンドの機能を担っています。PTFEチューブをエクストルーダーからホットエンドへフィラメントを供給するただのガイドだと思っていたのなら、この役割を理解してホットエンドの調整をし直すことをオススメします。

余談ですが、この考えをより推し進めたのがMK10ホットエンドです。ノズルの径が大きくなりPTFEのチューブがノズルの中にまで入り込みます。

MK8 ホットエンドの組立のポイント

ホットエンドの仕組みがわかれば何に注意して組み立てれば良いかがわかります。

ヒートブレイクの熱を取るためヒートシンクとの熱抵抗を下げます。熱伝導グリスを使うと良いでしょう。油が揮発して固着してしまうグリスは避けましょう。メンテナンスが面倒です。

PTFEチューブは消耗品です。ノズルからエクストルーダまで約30cmのPTFEチューブを交換するのはもったいない気がします。劣化が激しいのはノズルに接触する部分です。ノズルからクイック継手までの距離 約45mmにPTFEチューブを切ってホットエンドの中に入れて使うのもアリです。中に入れたPTFEチューブが動いてしまわないよう、外のPTFEチューブでしっかり押さえましょう。

ヒートブロックにノズルをいっぱいにねじ込みます。その後、半周から一周戻します。ヒートブレイクをノズルに当たるまでねじ込みます。PTFEチューブを切って中に入れるなら、ここでPTFEチューブを入れます。PTFEチューブの断面は垂直にきれいに切ります。専用のカッターを使ったほうが良いでしょう。
PTFEチューブがノズルにピッタリ当たる事を確認します。

ヒートブロックにヒータを入れる時に熱伝導グリスを使いたくなるかもしれません。ですがパソコン用のグリスの耐熱温度は150℃ほどです。使うのはオススメしません。グリスの油が揮発してヒートブロックとヒータが固着したらとても面倒くさい作業が待っています。

ヒートヘッドを組み付けた後にPTFEチューブを差し込みます。PTFEチューブの先端がノズルと密着する事を意識して押し付けます。ノズルの根本からフィラメントが漏れているならこの意識が抜け落ちている場合が多いでしょう。
ノズル温度を230℃ほどにしてノズルとヒートブレイクの金属を膨張させます。もう一度PTFEチューブをノズルに押し付けます。そして、ヒートブロックをペンチで固定してノズルを締め増しします。ヒートブロックをペンチで固定するのが難しいでしょう。ヒートブレイクとヒートシンクの取り付け部分が緩んでしまうかもしれません。スロートは薄い管なので曲げてしまうかもしれません。本体に固定せずペンチで持ちやすい位置でノズルの締め増しをするのも良いでしょう。
他のサイトなどでノズル温度を280℃ほどにして締め増しする説明があるかもしれません。多分これはMK8用の説明ではありません。PTFEチューブを使わない方式の場合でしょう。PTFEチューブの連続使用温度は260℃です。

古いノズルは炭化したフィラメントで黒くなっているでしょう。金属ブラシでこすれば落とせます。ですが本当にキレイにしたいのはノズルの内側、溶けたフィラメントの通り道です。フィラメントの通り道に汚れや傷があると、その部分でフィラメントの流れが悪くなり炭化がすすみやすくなります。ちょっと気になるようなら新品に替えてしまいましょう。MK8とあるやつなら使えるでしょう。一応サイズ確認はしてください。ネジはM6です。

ステンレス製ノズルなんてのも売っています。フィラメントの添加物によってはノズルを削ってしまうので固いステンレスを使います。ですが、ステンレスは熱伝導率が真鍮の約1/6と悪いです。ホットエンドの仕組みを理解したならノズルの温度が下がりやすい事が予測できるでしょう。そして造形速度を落として使う必要があると予測します。スライサーの設定条件が難しくなるだけなので消耗品として真鍮ノズルを使った方がいいと思います。

MK8 ホットエンドの得手不得手

MK8タイプのホットエンドは構造が簡単にできています。
精密加工が必要な部分がほとんどありません。ですから部品が安く安価な3Dプリンタを作ることができます。交換部品もたくさんの互換品から選ぶことができます。

初めて3Dプリンタを使うにはとても良いヘッドです。
PTFEチューブのおかげでホットエンドの中でフィラメントが詰まることはほとんどありません。これはスライス条件の幅が広くなる事を意味します。スライサの設定の意味を理解していなくてもスライサ標準の設定で造形できるでしょう。

PTFEチューブを使うからこその制限も出てきます。
PTFEチューブの連続使用温度は260℃くらいです。ですから使えるフィラメントは260℃未満のもの、PLAとABSくらいになります。高い温度は有毒ガスを発生させたりするので実質PLA専用と思い230℃くらいまでを意識した方が良いでしょう。
PTFEチューブは劣化します。劣化してチューブの径が細くなります。するとフィラメントの吐出量が減ってしまいます。定期的にPTFEチューブを交換しましょう。

フィラメントが溶けるのはノズルに接触してからです。ですからヘッドの移動速度を上げるとフィラメントを溶かすのが間に合わなくなります。そしてノズルの温度が落ちるでしょう。基本的に高速な造形には向きません。

オーバーホールした後は

ホットエンドをオーバーホールしたり部品を替えたりした後はノズル温度のPIDパラメータを再設定しましょう。温度が安定しなくなっているかもしれません。最適なノズル温度が変わっているかもしれません。スライサの設定を見直します。

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